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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)2656号 判決

原告

鈴木政一

ほか一名

被告

稲子治平

ほか二名

第一主文

一、被告らは連帯して

原告政一に対し金二、二三四、六二二円

原告さよ子に対し金二、一一三、〇〇〇円

およびこれに対する昭和四三年三月二三日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二、原告らその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は二分し、その一は被告らの負担とし、その一は原告らの負担とする。

四、この判決一項はかりに執行することができる。

第二本訴請求の趣旨

「被告らは連帯して、原告政一に対し、金七、六一九、五九六円、原告さよ子に対して金七、四四五、八五〇円および右に対する訴状送達の翌日である昭和四三年三月二三日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。」との判決ならびに仮執行宣言。

第三争いない基礎事実

一、死亡自動車事故発生

とき、昭和四二年六月一三日午後一時二三分頃

ところ、東京都江東区高橋四―九先路上

事故車、被告稲子所有の自家用大型貨物自動車、神一に九二四号

右運転者、被告稲子の従業員被告阿部、昭和七年一一月二七日生。

受傷死亡者、亡鈴木年光(足踏自転車運転中)、昭和二三年五月二一日生。

態様、事故車は白河町方面から菊川町方面に向つて北進中、同方向進行中の亡年光の車と接触、ために転倒した亡年光は骨盤骨折、腹腔内出血などにより、同月一五日午前五時頃死亡した。

二、責任原因について

(一) 被告稲子は、貨物運送事業の免許を受けずに、本件事故車を貨物運送事業のため、その運行の用に供しており、本件事故はその業務執行中に発生したものである。

(二) 被告相模運輸は、横須賀に本店をおき貨物自動車運送事業を営む資本金一億五千四万円(事故後の昭和四二年一二月金二億二千二百円となる)の会社であるが、昭和四一年暮頃から、被告稲子が運送事業の免許を受けていない自家用車による運送であることを了知の上、これに貨物運送を下請させ、その下請運送の執行中、事故が発生したものである。

三、相続関係

原告らは父母として亡年光の権利義務を相続により承継するものである。

四、損害の填補 金一、五〇〇、〇〇〇円

原告らは強制保険金一五〇万円の給付を受け法定相続分に従い二分の一、七五万円あて各自の損害に填補した。

第四争点

一、原告らの主張

(一) 責任原因

1 被告阿部の過失責任

本件事故は、被告阿部が、道路左端に駐車車両がある右側方を先行していた亡年光の足踏自転車を、その右側から追抜く際、自己の右側車両にのみ気を奪われ、右自転車に対する動静注視接触回避の措置を怠つたため発生したもので、民法七〇九条により損害賠償の責任がある。

2 被告稲子の運行供用者責任

従つてもとより被告稲子は運行供用者として、自賠法三条により、賠償責任を有する。

3 被告相模運輸の運行供用者責任もしくは使用者責任

被告相模運輸は零細な無免許業者である被告稲子に、継続的に運送下請を具体的な指揮監督のもとにさせることにより、ほとんどこれを自己の運送事業の一部に包摂して事業収益をおさめていた。被告稲子からしてもその運送事業の三分の二は被告相模運輸の仕事が占めており、ほとんど専属的というをはばからない。

こうした場合には被告相模運輸も、また自賠法三条にいう、「自己のために自動車を運行の用に供する者」として、原告らに対する損害賠償の責に任じなければならない。

かりに自賠法三条の適用がないとしても、被告相模運輸はその継続的、専属的な下請業者として被告稲子を使用し、その下請運送につき、被告稲子、同阿部に対し具体的・実際的な指揮監督を行なつていたから、民法七一五条一項により使用者としてその事業の執行について生じた本件事故による損害の賠償の責に任じなければならない。

(二) 損害

1 葬儀費用 金一七三、七四六円

原告政一が出費した。

2 逸失利益 計一二、八九一、七〇〇円

亡年光は富山県立高岡工芸高等学校建築科を卒業と同時に坂田建設株式会社に入社し、事故当時現場管理の補助業務に従業し、死亡直前の月では基本給月額一七、五〇〇円、現場手当一、〇〇〇円、超過勤務手当五、三四一円、合計二三、八四一円を得ていた。そして高校時代から建築家を志望し、勤務振りも誠実で将来は一級建築士などの資格をとり、建築家として大成する希望にもえていたから、事故なかりせば、坂田建設に停年六〇才まで同社に勤務し、順次課長まで昇進し、同社の就業規則附属給与規定・退職金規定にもとずき別表1、2、3明細のような給与収入・退職金があつた筈であり、これから別表1、2、3にしめした生存の場合の生活費を控除し、その純収益の現価をホフマン式計算方法により算出すると、給与収入による分は一二、〇八七、八六〇円(別表2の<中>)、退職金収入による分は八〇三、八四〇円となる。従つて亡年光の逸失利益の総額は少なくとも計一二、八九一、七〇〇円に達するわけである。

かりに坂田建設の給与規定・退職金規定によることが適当でないとすれば、労働省統計調査部、総理府統計局などによる公的統計資料を基準にして妥当な額が決定されねばならない。

右逸失利益を原告らは二分の一あて相続した。

3 慰藉料 計三、五〇〇、〇〇〇円

(1) 亡年光の慰藉料 一、五〇〇、〇〇〇円

前途洋々たる亡年光が実社会に踏み出した途端、あたら若き命を失つた痛恨をおもうと、右額を下らないものであり、原告らはこれを二分の一あて相続した。

(2) 原告らの慰藉料各一、〇〇〇、〇〇〇円

学業成績もひいで、職場環境にも恵まれて、将来建築家として大成することを嘱望していた愛息を失つた父母として、原告らの慰藉料は少なくとも各自一、〇〇〇、〇〇〇円を下つてはならない。またかりに右亡年光の慰藉料相続が認められないとすれば、原告らの慰藉料はその相続分請求をあわせて各自一、七五〇、〇〇〇円が相当である。

二、被告稲子、同阿部の主張

(一) 被告らの無責

本件事故は、事故車が進行方向左側の駐車車両のわきを通過しようとしたとき、一たん事故車をやりすごした亡年光の自転車が事故車の低速をみて、これを追抜こうとして突然事故車と左側駐車車両の間に割りこもうとしたため、目測を誤つて事故車の左前部フエンダー附近に衝突して転倒し、ために事故車の左後輪で轢過される憂目をみたもので、ひとえに亡年光の自殺行為にもひとしい過失によるものである。

被告阿部は、事故現場手前の交差点で停止信号で一旦停車し、進めの信号により発進したが、八トン位のステンレス板のコイルを積載していたので急に加速すると積荷が片寄る危険があるのでおもむろに加速し、時速約五ないし一〇キロで現場にさしかかつた。そして衝突地点約三七メートルのところで前方約一六メートルの亡年光の自転車を発見したのでクラクシヨンにより注意を与えたところ、亡年光はその七、八メートル前方道路左端に縦に並んでいた二台の駐車車両の後部附近で一時停止したので、これを確認した上、対向車両の進行などとの関係上可能なかぎりの一メートル余の間隔を駐車車両との間にとりながら、その右側を進行したところ、前記のような亡年光の割込があり、本件慘事となつたもので、被告阿部に過失は全く認められない。

被告稲子は被告阿部を過重な運送労務に就かせたことはなく、本件事故前夜も被告阿部は九時間の睡眠をとつており、その他万般運行供用者として注意を怠つていない。

事故車は、本件事故直前である昭和四二年五月初旬に車両の整備を行つたばかりで、本件事故時まで運転使用に何らの支障はなく本件事故と因果関係ある構造上の欠陥や機能の障害はなかつた。

(二) 過失相殺

かりに被告らに何らかの賠償の責があるとしても、本件事故に寄与した亡年光の過失は重大であるから、被害者側である原告らの賠償請求につき、過失相殺が考慮されねばならない事案である。

三、被告相模運輸の主張

(一) 被告らの無責

被告阿部に運転上の過失がなく、被告稲子に免責事由が存すること、被告稲子・阿部の前記主張を引用する。

被告相模運輸は本件事故につき、運行供用者ないし使用者の責任を負ういわれはない。被告稲子に対する下請関係は口頭の依頼で開始され、本社の禀議も受けず正式な契約もなく、本件事故までわずか六、七ケ月にすぎず、他の下請とことなり資金的な援助・物的施設の利用なども与えていなかつた。被告稲子の保有車両数は二、三台にすぎず被告相模運輸の下請運送量の四、五%程度を占めていたにすぎず、またその運行状況は配車依頼に応じ被告稲子のもとで運転手の選定と配車を決定し、その指示により積載量、走行距離などの調整が行われており、被告相模運輸が運行上の具体的な指揮監督あるいは管理を行つていたことはない。そして貨物運送依頼と屯料制により運賃支払をする以上の関係にはなかつた。従つて運行供用者責任を問われるような運行管理支配の実もなかつたし、使用者責任を追及されるような使用・被用の実質や具体的な指揮監督の要件に欠けている。

(二) 過失相殺

被告稲子・阿部の前記主張を引用する。

第五、争点に対する判断

一、責任原因

(一) 被告阿部の不法行為責任・被告稲子の運行供用者責任

本件事故につき、後記判示のように亡年光の過失も無視し得ないが、駐車車両の右側附近で亡年光の足踏自転車と併進・追抜の状態となつた際、危険防止の注意義務をつくさなかつた過失が認められ、不法行為責任を免がれない。すなわち幅員一六・六メートル(両側に幅員二・五メートルの歩道あり)のアスフアルト舗装道路の現場に時速約二〇キロで差しかかつた際、現場の西側縁石よりに乗用車とトラツクが南北たてに駐車して約二・五メートルの路面幅員をふさいでおり、その後方附近に亡年光の足踏自転車が北進しているのを現認しながら、それを右駐車車両右側とはさんで併進し接触する危険があることが予想されるにかかわらず、足踏自転車が駐車車両の後方で停車の上やりすごしてくれるものと軽信し、十分その動静を確かめることなく、自己の右側車両との接触の危険防止に気をとられて進行をつゞけたため、亡年光の自転車と接触、ために亡年光が転倒、経過されるにいたつたもので、人身の危険防止に意をつくすべき運転上の注意義務を怠つたといわざるを得ない。

従つて、もとより被告稲子は、事故車をその運行の用に供する者として、自賠法三条により、事故による賠償責任を免がれない。(〔証拠略〕)

なお右認定に反する被告阿部の供述部分は事故直後の真摯な供述を録取したものと認められる甲四、五号証(警察官面前調書)、甲八号証(検察官面前調書)の記載とくいちがうこと、供述時の時日の経過などから、にわかに採用できない。

(二) 被告相模運輸の運行供用者責任

この点に関し、争いない事実(第三の一、二)および前項認定事実のほか、左の事実が認められる。

(イ) 被告稲子は昭和四二年暮以前にも通称関東運輸センターといういわゆる白ナンバーの零細運送業者の集合体の一員として被告相模運輸の下請をしており、右関東運輸センターが行きづまつてから被告稲子は独立して直接被告相模運輸の下請となつた。

(ロ) 事故車の運転業務は毎日のように被告相模運輸の下請であつて、被告稲子独自の業務は例外的であり、被告稲子の指示のない限り、被告阿部は毎日被告相模運輸の指示に基づいてその豊州営業所に赴いて、その運送に従事していた。

(ハ) その運送業務のあり方は、被告相模運輸の従業員が直接被告阿部に対して積荷、道順などの指示をし、相模運輸名義の送り状をわたし、少なくとも積荷の送り主と荷受人との間においては、被告稲子の名義は何ら出ず、被告相模運輸の名義において行われていた。

(ニ) 被告相模運輸と被告稲子との間の下請関係については、何ら契約書も、また明細な契約条項の取極もなく、昭和四二年三月頃、事故車積載の荷が盗難にあつた際にも、その損害賠償は、被告相模運輸から被告稲子に対する月々の運送賃から差引計算によつて、清算されていた。

(ホ) 事故車を被告相模運輸の営業所に保管しておくこともあり、ほとんど専属的・従属的な出入・積荷の状態であつた。(〔証拠略〕)

右争いない事実・認定事実を綜合すると、たとい本件下請が本社の禀議を経ていない豊州営業所の権限に基づくものであること、特に被告稲子に融資などの便をはかつていなかつたこと、被告稲子の下請が被告相模運輸にとつて下請に出す量の一ないし二%しかすぎないこと、支払いが屯当りの出来高払いであつたこと、などが同じく右資料により認められるとしても、被告相模運輸は、直接事故の運行に関し具体的な管理支配の実を有し、また同じく運行による利益を享受していたものといえる。従つて被告稲子と競合して運行供用者として、自賠法三条により本件事故による損害を賠償する責に任じなければならない。

二、損害

原告主張のうち、左の限度での損害発生が認められる。

(一) 葬儀費用 金一七三、七四六円

原告政一が出費を余儀なくされた。

(二) 逸失利益 合計五、一八〇、〇〇〇円

亡年光は昭和四二年四月、富山県立高岡工芸高等学校を卒業と同時に坂田建設株式会社に入社し、事故当時現場監督の補助業務に従事し、入社から死亡による六月一五日までの二ケ月余の計算として七〇、八〇〇円の給与収入があつた。従つて事故による不慮の死に遭わなければ右坂田建設にその停年時六〇才まで事故時一九才から四一年間勤務して給与収入を得た筈であり、その数額についても、原告ら主張の別表1、2にわたるものが予想できないところではない。しかしながら、入社三ケ月足らずの一九才の若年であつたこと、などから、その逸失利益算定に当つては控え目に、毎年収益三五万円、生活費年一五万円、差引き純収益年毎二〇万円を停年時まで四一年間得たものとするのが相当である。その逸失利益の現価を新ホフマン式計算によつて算出すると四三八万円となる。

200,000×21.9=4,380,000

また停年時に少なくとも二五〇万円の退職金の支給を得た筈であり、その現価をホフマン式計算により算出すると八〇万円となる。

2,500×0.32=800,000

そうすると亡年光の逸失利益は計五、一八〇、〇〇〇円となり、原告らは法定相続分により各二分の一の二、五九〇、〇〇〇円あての請求権を相続により取得した。

(三) 慰藉料 計三、〇〇〇、〇〇〇円

亡年光の慰藉料請求権は一身専属的なものであり、その相続による請求は現行損害賠償制度の本質上認められない。

しかしながら四子のうち、三男である愛息亡年光を失つた原告の痛恨を慰藉すべく、父母として各一五〇万円が相当である。(〔証拠略〕)

そうすると原告らの元来請求できる損害賠償請求権は左のとおりとなる。

原告政人 (一)、(二)、(三)、 計四、二六三、七四六円

原告さよ子 (二)、(三)、 計四、〇九〇、〇〇〇円

三、過失相殺

本件事故発生については、亡年光にも、車両通行のかなり頻繁な本件道路において駐車車両の右側を通過しようとする際に、後側方に対する注意を欠いた重大な過失が認められる。しかしながら、現場の状況、双方の車種の対比、事故状況、死亡事故であるなどから、過失相殺の適用は、被害者側である原告らの賠償額を三〇%減額するのが相当である。(〔証拠略〕)

そうすると原告らがなお請求し得べき請求権は前記認定額の七〇%となり左のとおりとなる。

原告政一 二、九八四、六二二円

原告さよ子 二、八六三、〇〇〇円

四、損害の填補

右請求権からさらに強制保険金による填補額各七五万円あて差引くと左のとおりとなる。

原告政一 二、二三四、六二二円

原告さよ子 二、一一三、〇〇〇円

五、結論

そうすると、原告らの請求は主文の限度で認容すべきである。訴訟費用につき民訴法九二、九三条、仮執行宣言につき同一九六条を適用した。

(裁判官 舟本信光)

別表2の1

<省略>

別表2の2

<省略>

別表3

退職金収入

93,100円(定年時基本給)×{42.6+(0.7×2)}(定年時支給率)=4,096,400円

退職金収入による本人の生活費

12,000円(生活費月額)×12ケ月×11年(平均余命年数)=1,584,000円

逸失利益(

4,096,400円-1,584,000円=2,512,400円

<乙>逸失利益現価

2,512,400円×0.32(ホフマン係数)=803,840円